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離散事象システムとペトリネット

あるシステムの性質を解析したり、制御したりするには、 対象とするシステムの性質に合ったモデルを用いることが有効である。 例えば、線形時不変システムには、 伝達関数や状態空間モデルなどが用いられている。

ペトリネット(Petri net)は「離散事象システム(discrete event system)」と 呼ばれるシステムのためのモデルの一つである。

離散事象システムの一例として、電話を考えてみる。 Aは受話器を上げてダイヤルする。 そしてBが出れば話をして電話を切る。出なければそのまま電話を切る。 この様子を図1(a)で表す。 Aから電話がかかってくると、Bのベルが鳴る。 Bが受話器をとれば、Aと話をして、電話を切る。 その前に、Aが電話を切るかもしれない。 この様子を図1(b)で表す。

図 1: 電話をかける
\begin{figure}
\centering\setlength {\unitlength}{0.6pt}%\small\begin{picture}...
...0,0){Bが出る}}%
\put(0,-20){\makebox(300,20){(b)}}%
\end{picture}%\end{figure}

図中、
\begin{picture}(1,0.8)(0,0)\put(0,0){\framebox (1,0.8){}}
\end{picture}
はAまたはBの動作、
\begin{picture}(1,0.8)(0,0)\put(0.5,0.4){\oval(1,0.8)}
\end{picture}
は電話の状態を表す。

この「システム」の特徴をいくつか挙げてみる。 まず、電話の状態は不連続である。 例えば、ベルは鳴っているかいないかのいずれかであって、 「15.4%鳴っている」ということはない。 ベルが鳴っているとき、Aが電話を切らない限りは、Bはいつ電話に出てもよい。 通話が終わった後(とは限らない?)、AとBはどちらが先に受話器を置いてもよい。 次に述べるように、これらは離散事象システムを特徴づける性質である。

形式的には、離散事象システムとは、計量の入らない変数で表されるシステムである。 離散事象システムにおける状態の遷移を「事象(event)の生起」という。 二つの状態AとBの「中間の」状態は存在しないので、事象の生起は瞬時に起きる。 離散事象システムには、通常の意味での「時計」は存在しない。 事象の間に半順序関係(順序が定義されていない組があってもよい点を除いて 通常の「全順序」と同じものと考えてよい)が存在するのみである。 この順序に反していなければ 生起可能な事象はいつ生起してもよい(非同期性, asynchronousness)し、 順序の定義されていない二つの事象は、どちらが先に生起してもよい (同時進行性, concurrency: Petriは相対性理論までもちだして説明している!)。

問題 1   離散事象システムの例を挙げよ。



ohta@ist.aichi-pu.ac.jp