ペトリネット(Petri net)は「離散事象システム(discrete event system)」と 呼ばれるシステムのためのモデルの一つである。
離散事象システムの一例として、電話を考えてみる。 Aは受話器を上げてダイヤルする。 そしてBが出れば話をして電話を切る。出なければそのまま電話を切る。 この様子を図1(a)で表す。 Aから電話がかかってくると、Bのベルが鳴る。 Bが受話器をとれば、Aと話をして、電話を切る。 その前に、Aが電話を切るかもしれない。 この様子を図1(b)で表す。
図中、
はAまたはBの動作、
は電話の状態を表す。
この「システム」の特徴をいくつか挙げてみる。 まず、電話の状態は不連続である。 例えば、ベルは鳴っているかいないかのいずれかであって、 「15.4%鳴っている」ということはない。 ベルが鳴っているとき、Aが電話を切らない限りは、Bはいつ電話に出てもよい。 通話が終わった後(とは限らない?)、AとBはどちらが先に受話器を置いてもよい。 次に述べるように、これらは離散事象システムを特徴づける性質である。
形式的には、離散事象システムとは、計量の入らない変数で表されるシステムである。 離散事象システムにおける状態の遷移を「事象(event)の生起」という。 二つの状態AとBの「中間の」状態は存在しないので、事象の生起は瞬時に起きる。 離散事象システムには、通常の意味での「時計」は存在しない。 事象の間に半順序関係(順序が定義されていない組があってもよい点を除いて 通常の「全順序」と同じものと考えてよい)が存在するのみである。 この順序に反していなければ 生起可能な事象はいつ生起してもよい(非同期性, asynchronousness)し、 順序の定義されていない二つの事象は、どちらが先に生起してもよい (同時進行性, concurrency: Petriは相対性理論までもちだして説明している!)。