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医療分野ポルトガル語スペイン語講座
(ポルトガル語スペイン語による医療分野地域コミュニケーション支援能力養成)
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平成24年度公開シンポジウム「あいち医療通訳システム:現状と展望」 概要

最終更新:2012年12月25日 16:19

平成24年度 医療分野ポルトガル語スペイン語講座

公開シンポジウム「あいち医療通訳システム:現状と展望」

[日時] 11月4日(日) 14:30~17:00

[場所] 愛知県立大学 長久手キャンパス S101

[パネリスト]

大橋充人氏: 愛知県地域振興部国際課多文化共生推進室主任主査

浅野輝子氏: 名古屋外国語大学現代国際学部准教授(英語)

馮 愛珠氏: 愛知大学非常勤講師(中国語)

水野綾子氏: 愛知県立大学卒業生、医療通訳者(スペイン語)

[司会・進行] 渡会環 本学外国語学部スペイン語圏専攻専任講師、ブラジル研究者

あいさつ(外国語学部長 堀一郎)

平成19年から始めた、医療分野ポルトガル語スペイン語講座も今年で6年目になる。語学だけでなく、異文化コミュニケーションに関する授業も受けてもらうことで、通訳者としての能力だけでなく、多文化共生的な対応力も身につけられるだろう。母語が日本語でない人が日本語で医療に関する説明を受けるというのは本当に大変な思いをすることに違いない。日本に住む外国人の暮らしの過酷さを理解することが、彼らと支えあう第一歩になると考える。

シンポジウム

大橋充人氏

「あいち医療通訳システムについて」

n 愛知県の外国人の状況

愛知県内には約20万人の外国人がおり、これは日本全国で東京、大阪に次いで3位である。平成2年の入管法の改正により急増した日系人のニューカマーが多いのが特徴である。   

また、在住している外国人は今後とも日本で生活していこうという永住志向が強い傾向がある。しかしながら、日本語能力が十分でないことから教育・医療・労働などの生活環境に不安を感じている。平成21年度の外国人への意識調査によると、日常生活で一番困ったことの第一位(14.6%)は「病院で言葉が通じなかった」ことだった。日本で安心して暮らしてもらうために医療通訳が必要である。

n 外国人医療の課題

〈疾患の違い〉

人種や気候、食生活の違いで疾患の頻度が異なる場合がある。また、寄生虫疾患で日本では存在しない疾患(例:シャーガス病)もある。

〈文化・習慣の違い〉

頭を触られるのを嫌がる(タイ・インドシナ諸国など)、素肌を見られたくない(東南アジア、南西アジア)、発熱などのときに体をコインで強くこする(カンボジア)

〈ブラジルのケース〉

「私立病院はレベルが高いが医療費が高く、公立病院はレベルが低いが医療費は安い」「慢性疾患の薬は長期間の薬の処方が普通だし、日本に比べて薬剤含有量が多い」「何のためにどのくらい飲まなければならないのかということを具体的に理解しないと、よくなった時点で薬の服用をやめてしまう」等がある。

このような違いを理解するためにも医療通訳は必要である。

n 3つの壁

 多文化共生を社会づくりのために「言葉の壁」「制度の壁」「心の壁」の3つの壁があると言われている。

「制度の壁」については、医療に関しては、外国人であるという理由で対象外となっている医療制度はないし、特に、結核は拡大を防ぐために、不法滞在者であっても予防の対象となる。

「心の壁」については、実は一番壊すことが難しいものであり、大きな問題であるが、今回は医療通訳がテーマなので説明は省略する。

「言葉の壁」について考えてみたい。

〈日本語がわかる患者の場合の問題点〉

まず、「わかる」と言っても、どの程度わかるのかが問題。日常会話程度がわかると言っても、医師の話す難しい言葉がわかるのか、問診票などの読み書きができるのか、という問題がある。また、日本語がわからない患者よりも、少しわかるという患者の方がトラブルが多いと言われている。医師は、日本語がわかると判断すると安心して、日本人に話すように日本語を話してしまう。しかし、患者はそこまでの理解力はなくて何も伝わっていないにもかかわらずうなずいてしまうので、医師は患者が理解したと勘違いしてしまうからである。さらに、日本語が本当にわかる人でも、病気で苦しいときに、後で覚えた日本語を普段のように理解することができるだろうか。

〈日本語のわかる知り合いを連れて行く場合の問題点〉

知り合いに、患者の知られたくない情報を知られてしまう可能性がある。患者に同情してしまい、伝えるべきことを伝えることができないかもしれない。また、どの程度の通訳技術を持っているのかという問題もある。仮に、きちんとした通訳技術を持った人がいたとしても、そうした人は限られているので、通訳の依頼がその人に集中してしまい、肉体的にも精神的に大きな負担になってしまう。

〈日本語のわかる子どもを連れて行く場合の問題点〉

風邪程度ならいいのだろうが、子どもが親の重い病気を知る辛さは想像に難くない。また、学校を休まなければならない。子どもは日本語を比較的早く覚えるが、それでも子どもの理解力しかないため、医師の言う意味が理解できているか疑問であり、また、通訳技術が備わっているとは考えにくい。

〈それ以外の患者の場合の問題点〉

そもそも、医療機関にアクセスできない。見えない存在である。

医療機関に医療通訳の話をしに行くと、外国人が来て困ったことはないと言われることがある。しかし、こうした負担を外国人に強いているから困ったことがないだけであり、また、何の手立てもない人は行きたくても行けないから問題が表面化していないだけである。

以上のことから、医療通訳は必要である。しかしながら、外国人が来院しない医療機関が通訳を常勤で雇用するのは非効率である。そこで、医療通訳システムを構築したということである。

ただし、それだけですべてが解消するわけではない。まずは、医療機関で受け入れようとする姿勢が必要であり、それがなければ始まらない。むしろ、ちょっとした外国人との接し方を知っていたり、医療通訳の心得のある人が医療機関にいれば、システム自体必要ないかも知れない。この「医療分野ポルトガル語スペイン語講座」には、医療機関の関係者の方も受講していると聞いているので、非常に期待している。

医療通訳システムの概要について説明する。

n 経緯

平成22年度にニーズ調査を実地し、医療関係団体、大学、関係市町村から成る検討会議でシステム案を検討した。23年度には医療通訳者の養成をはじめ、10月から試行的運用を開始した。平成24年度の4月から本格的な実施を始めた。

n 費用負担

運営費(養成経費・事務局経費)は愛知県及び県内全市町村の行政が負担する。通訳利用費は医療機関及び患者が2分の1ずつ負担する。行政がインフラを負担し、その利用料は利用者が負担するという構図である。

n 養成方法

・語学能力試験(筆記試験・面接試験)

・基礎研修(7日間36時間)  * 医療通訳共通基準に基づく。

・認定試験(筆記試験・面接試験)

・現場研修

n 試行的運用の実績

協定医療機関は最初、13か所だったが、徐々に増え、最終的には54か所にまで増えた。

通訳者への応募者は、初めて実施したということもあり、743名もあった。研修のキャパシティの問題で語学能力試験により100名程度にまで絞り込み、さらに研修を経て認定した人数は89名となった。かなり高いレベルであると思う。

通訳派遣(予約)は段々と増え、半年で325件の利用があった。電話通訳も137件の利用があった。当初、即時性のある電話通訳の利用が多いと予想していたが、通訳派遣の方が件数は多かった。しっかりと診察しようと思うと、電話では限界があるのだろう。

通訳派遣では、英語・中国語・ポルトガル語・スペイン語の他にフィリピン語も始めた。通訳派遣の流れは、患者の同意を得たうえで派遣依頼が出される。

電話通訳は365日24時間対応している(*フィリピン語は当面は平日の午前9時から午後6時まで)

n 利用申し込みの流れ(保健所は不要)

利用の申し込みには、「利用規定」と「利用申込書」を入手し、内容を確認後「利用申込書」を郵送で事務局へ提出する。受理されると受理書が送付され、利用を開始できるという流れである。

ホームページ http://www.aichi-iryou-tsuyaku-system.com/

お問い合わせは、事務局(愛知県多文化共生推進室)まで

電話052-954-6138

メール tabunka@pref.aichi.lg.jp

浅野輝子氏

「あいち医療通訳システム‐養成プログラムに関わって‐」

n 医療通訳者の養成に関わって

愛知県内に約20万人の外国人県民が在住しており、医療通訳者の養成は必要で、急務だった。新聞にも、「医療現場に通訳を」「愛知県 大学と連携、100人養成を目指す」という見出しで記事が掲載された。

n 医療通訳者の養成の流れ

① 募集 一般公募(対象言語は5言語)

② 養成(各言語20名程度)

③ 語学能力試験(筆記と面接)

④ 基礎研修(知識・心構え・通訳技術の基礎研修)

司法通訳は人の一生を左右するものであり、医療通訳は人の生命を左右するものだということを自覚しておく必要がある。また、正確な通訳をするだけでなく、守秘義務や患者の立場の尊重など、意識しなければいけないことは多い。

⑤ 認定試験

⑥ 現場研修

n 通訳技術の基礎研修

〈座学の内容1日目〉

・通訳のトレーニング(同時通訳ではなく逐次通訳)

・受講者がペアで、単語のクイックレスポンスとリテンション(1語、2語遅れで行うことで記憶保持能力を養えるようにするもの)を行った。

・シャドウイングの練習

・逐次通訳(メモ取り、パラフレージング(自分の言葉に言いかえる)練習)

・サイトトランスレーションとスラッシュリーディングの練習

〈座学の内容2日目〉

・前回の復習

・注意事項(必要な持ち物や身だしなみなど)

  ハイヒールを履かないこと、露出を控えること、香水やアクセサリーをしないことなど。

・テキストを使って、病院での自己紹介をペアで行う。

・応用編を中心に各言語で医療通訳のロールプレイを行う。

困った場面を想定して行う(例:声が小さくて聞き取れなかったとき。通訳がためらわれるような失礼なものいいに対してどのように対応するか、など)

〈英語通訳技術研修では〉

・日本人講師2名 通訳技能採点者1名 ネイティブスピーカー1名

・1コマ90分の講義を4日間で10コマ行った。

n テキストの作成では

マッコーリー大学のテキストをサンプルとし、診療科を選択しまとめた。現場の医師の協力をあおぎ、通訳テキストから引用するなどネイティブの臨場感ある体験談を載せた。病名・痛みの種類・体の部位などの医療用語集も作成した。

n クラスでの講義内容

① 座席表を作成し、毎回違う人とメンバーになるようにした。

② 医療英単語・表現の練習

③ ロールプレイでの練習

④ 発表

⑤ 英訳・和訳の訂正

⑥ 質疑応答

⑦ 応用

体得するような形の授業になり、受講生にとって技術が身につくものになったのではないかと思う。

〈良かった点〉

受講生が経験豊かで熱心だった点。ロールプレイを中心とした実践的な通訳練習。現役の医師が参加してくれたことで、より実践的な講義ができた。

〈反省点〉

より専門的な知識が不足していた点。医療における言語の使われ方の奥深さを実感させられる。テキストの使い方も難しいものだった。

n 36時間の研修終了後

18時間の座学と18時間(12コマ)の通訳基礎研修を終えると、認定試験(通訳基礎技能)として筆記試験と面接試験を受ける。愛知県による認定試験では、受験者の内ほぼ全員が認定されるという結果となった。

n 現場研修

認定試験合格者はあいち小児保健医療センターで現場研修を行った。ロールプレイ(実際の役割を想定した実演練習)を実施し、ロールプレイ終了後に、通訳技能についてのフィードバックをしてもらえるというもの。

n 認定後のサービス内容

対象機関での通訳・医療通訳者派遣・電話通訳・文書通訳

n 認定後の通訳派遣の稼働率

認定試験では、英語の場合は30名中29名が合格した。昨年度末までで、英語の依頼は35件あり、22名を実際に派遣している。ポルトガル語・スペイン語・中国語を含めた全体では325件の派遣要請のうち257件が実際に実施された。愛知県内の協力医療機関・保健所などは42件ありその内19件が利用した。機関別に見ると、1件から41件の依頼があった。

n まとめと今後の課題

① バイリンガル医療従事者の参加が重要かつ必要

② ソーシャルワーカーとの連携が必須

③ 通訳者と病院側の橋渡し役

患者の背景知識(いままでどのような疾患があったか、など)が充実することで、より正確な通訳が可能になると考える。

④ 現場の声のフィードバックが難しい

⑤ フォローアップ研修と受講生の自主的な勉強グループ

馮 愛珠氏

「役に立つ医療通訳になりましょう!」

■ 医療には国境はない、政治に左右されない、人の命の尊さに関わる神聖なものである。

■ 医療通訳技術

・思い込みは禁物

(例:「乳頭癌の手術の施術の部位は?」・・・「乳頭を切除する手術をします。」などと訳すと大変なことに!乳頭癌とは、乳頭に形が似ていることからついた名前であって、切除するのは胸部の乳頭ではない。)

・コミュニケーションの仲介役を務める通訳として

(具体的には、早口を避ける。発音やアクセント、イントネーションに注意を払って通訳する。緊張しないで、落ち着いて、自信のある声で通訳する)

■ 異文化を理解し、無理解から起きやすいトラブルをできるだけ回避し、より良い医療 環境に持っていく。

・中国の医療事情 6例

① カルテの管理

  中国では、外来患者の個人のカルテはその人自身で管理することになっており、病院に自ら持参するものである。日本では、病院が管理するものであるということを患者に説明する必要がある。

②  中国では、診察医を指名することができる。

診察費は、医師の経歴や技術により若干値段が異なる。日本では、男性の医師も女性を診ることを女性患者に説明したり、文化的背景の違いを患者と医師の双方に話したりする必要がある。前もって女性医師に担当してもらえるか質問して、次回から指名できたりすれば、その旨を話し、勧めることができる。

③  点滴

日本では、必要以外できるだけ点滴をしないようにするが、中国では病気になったら、必ずと言っていいほど点滴注射をする。点滴願望の強い患者には、信頼できる医師の指示・治療に従った方がいいなど、説得する必要がある。

④  献血

日本では献血に関する認知度が比較的高い。しかし中国では無償献血もあるにはあるが、多くの人は理解が浅く、献血が足りていないのが現状。現実的には職場に献血ノルマが課せられる。献血をすると、一千元(日本円で一万二千円程度)ほどの現金や一週間の献血休暇が得られることもある。医療通訳者の立場としては、親族や友人にあまり無理に献血を勧めない方がよいだろう。

⑤  入院看護

中国では、入院中の看護は家族やお手伝いがする。食事まで家から運んで行くこともありうる。付き添いのための病院の折りたたみベッドをレンタルする場合もある。日本では、入院中の患者は病院による完全看護だということを必ず患者と家族に説明し納得してもらわなければならない。

⑥  医療と関係ない相談

中国では初対面の人に対しても話しかけたり、話が弾んだりする。しかし、医療通訳ではプライベートな話は一切できないことを患者にはっきりと伝える必要がある。特に、医療に関する判断を求められた場合に通訳者は責任をとれないので、コメントやアドバイスは絶対にしてはいけない。病院の受付・ソーシャルワーカー・相談セクションなどで相談することを勧める必要がある。

■ 課題と展望

2011年に日本で新設された外国人のための『医療ビザ』

・ 中国の富裕層は日本の精密機械による検診に強い関心を持っている。彼らは日本を医療先進国と考えられている。こういった人たちをターゲットに、精密検診とその後の継続的な治療を結び付けることができるのではないか。

※ 医療は「どんな時も、いかなる状況でも、いかなる人も公平に受けることができる」ことが前提。

・ ことばの壁を打ち破る必要性がある。医療通訳システムを有効活用することが改善に

つながる。また、医療従事者に外国語対応を可能な範囲でできるような教育をしたり、介護福祉や看護医療の専門大学や医学院における中国語や異文化の勉強を強化したり

することが必要だと考える。

水野綾子氏

「あいち医療通訳システム~医療通訳の現場から~」

n 派遣のパターン

・一般的な診療・検診に対応する通訳 3000円/2時間

・インフォームド・コンセントなど高度な通訳 5000円/2時間

・特定の曜日・時間帯など定時の通訳派遣 5000円/2時間

※ 病院に通訳者なしで来た患者のために、常に病院で待機する定時の通訳派遣の形態は少ない。

n 通訳者派遣依頼

・同じ患者には同じ通訳者がつくことが多い。

・ 「○月×日に△△病院で・・・」とメールで登録者に依頼内容が配信され、可能な通訳者が返信をし、選定されるという流れ。

(事務局側で通訳者を選定し、メール及び電話で依頼内容の打診がある。ポルトガル語のみ全通訳に一斉配信)

n メリットとデメリット

〈メリット〉

・研修のクオリティが高い。

・通訳者同士のつながりができる。

〈デメリット〉

・誤訳が命にかかわる。責任重大な仕事。

・感染症などにかかるリスクがある。(保険はカバーされているが、感染症の患者だと分かったからといって通訳をやめるわけにはいかない、というシーンも想定される。)

・高度な技術が求められ、高リスクなわりに報酬は少ない。

n 今後の課題と展望

・依頼者の情報が少ない

守秘義務の問題があるが、通訳する側にとっては、国籍によってどのような言語を使うのか想定できるケースもあるので、あらかじめ知らせてもらえると助かる。(英語やスペイン語のような広い地域で使われている言語の場合は、特に地域ごとに特徴がある)また、病名などもあらかじめ知ることができれば、表現や単語を調べることができ、助かる。(例:現場に行って初めて口腔科の舌下帯の切除の手術だと知った場合など)

・依頼件数が少ない

・まだまだ周知不足

・患者からも依頼できるようなシステム作りの必要性

・報酬の改善

・医療以外の分野への通訳の進出

質疑応答 

Q:今後の通訳の謝礼は適正価格になるのか。行政の補助により謝礼を上げることはできないか。

A:(大橋氏)何をもって適正というかは難しいところだが、安いのは事実だろう。しかし、様々な調整を経て決まった金額なので、すぐに上げることは難しい。まずは、実績を積み上げて、なくてはならないシステムと認知されるようになれば、上げることに理解を示してもらえるかもしれない。行政の補助については、現在でも県と市町村により、運営事務局の経費を負担しているが、このシステムは法律等に基づいているものではないため、その負担が続けられるかという問題がある。制度化されればそんな心配はないが、現時点ではそうした不安定な状態にあり、さらに補助することは考えられない。これも「制度の壁」の一つである。

Q:来年度の募集時期・研修時期はいつごろ

A:(大橋氏)今年度と同様にやるのであれば、募集は4月中旬から始め、5月末に締め切る予定。

 (水野氏)研修はクオリティが高く、参加して得るものは多かった。

(大橋氏)各大学の先生方に多大なご負担をいただきながら、手探りの状態の中でつくりあげた研修内容なので、そのように評価してもらえて嬉しい。

Q:他の少数言語についてはどうなっているか。

A:東京であれば様々な言語の専門家がいるが、愛知県ではまだ難しいのが現状。ただし、例えば、ロシア語が母語の方に、英語での研修を受けてもらえば、語彙等はともかく、通訳技術は身に付くので、ロシア語にも対応できる。実は、英語で養成している通訳者のうち、何人かはそういう方であり、他言語への対応も視野に入れている。しかし、きちんとした形での他言語の通訳者の養成は考えていない。

Q:研修予定人数はどのくらいか。

A:(大橋氏)各言語20名程度を予定している。

Q:医療従事者用の研修は行うのか。

A:(大橋氏)今のところ行う予定はない。ただ、医療従事者が通訳能力を身に付けるのは望ましいことであり、この「医療分野ポルトガル語・スペイン語講座」を多くの医療従事者が受講してほしいと思っている。また、病院側の通訳システムへの理解を得ることは重要だと考え、病院向けの手引きを作成して受理書と一緒に送っている。

Q:現場でのミスの責任の所在はどこになるのか。

A:(水野氏)まずあってはならないことだが、システムの利用者には、通訳者が誤訳をしても、システムも通訳者も訴えないという同意書に必ず同意したうえでサインしてもらうことになっている。

Q:保険の加入はあるのか。

A:(大橋氏)ある。

Q:あいち医療通訳システムがあまり知られていないという現状についての対策は。

A:(大橋氏)キャラクターなどの公募などを行い、広報にも力をいれていきたいと考えている。また、通訳者にも外国人の方へ周知してもらえるよう、カードサイズの案内も作成したい。

 (水野氏)医療という分野に限らずに、福祉の分野などにも視野を広げていくことで依

頼件数が伸び、通訳者のモチベーションアップにもつながると思う。

(浅野氏)通訳の仕事の大変さがなかなか理解してもらえないという現状があるが、毎年通訳コンテストを開催するなどして通訳の普及に努めている。一般の方にもっと周知して社会的地位を上げていく必要がある。せっかくここまで愛知県のバックアップで作り上げてきたシステムなので、通訳技術のレベルアップをするとともに、他の言語の通訳者や先生とも連携して、学び合いながら、広い範囲の人々、学生に興味を持ってもらえるようにしたい。連携大学間で協力して通訳養成の講座を設けられるとよいと考えている。

 (大橋氏)水野さんがおっしゃったように、福祉分野への拡大もニーズがあると思う。また、患者から通訳を依頼できれば依頼件数が伸びると思うが、患者が連れてきた通訳に病院側はお金を払ってくれないと考えられるため、まずは、「医療通訳は患者が連れてくるものではない」という認識を広め、システムへの理解を求めていきたい。浅野先生から提案があった養成に関わっていただいた4つの大学が連携して医療通訳養成をするという話は、是非ともやってもらいたい。

閉会のあいさつ(実行委員長 江澤照美)

医療分野ポルトガル語スペイン語講座は今年で6年目になる。お金や人材が主な問題で、なかなか充実できないのが現状である。長久手キャンパスでは、入門・初級・中級のレベル別の語学クラスを設けているが、より上のレベルの教室の必要性があるだろう。医療通訳者のニーズがあるからこそ、講座を続けていく価値があると考える。通訳者への一般の理解が深まり、職業的なプロとしてのモチベーションを保てるよう、今後とも高度な人材を輩出できる講座を設けたい。

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