平成21年度公開シンポジウム 「地域に求められる医療コミュニケーション支援の技能」 (2009年10月30日)
シンポジスト:
水野 真木子氏 (金城学院大学文学部教授、日本通訳翻訳学会理事、日本英語医療通訳協会会長)
村松 紀子氏 (医療通訳研究会MEDINT代表、(財)兵庫県国際交流協会スペイン語相談員)
【 資料 10/30水野真木子先生.pdf 「コミュニティー通訳の意義と通訳者の心構え・・・医療通訳を中心に・・・」 】
【 資料 10/30村松紀子先生.pdf 「地域に求められる医療コミュニケーション支援の技能」 ~スペイン語及び日本人通訳者の医療スペイン語学習について~ 】
【 資料 10/30水畑千鶴エジナ先生.pdf 「ブラジルの医療現場から日本のコミュニティ通訳現場へ」 】
佐々木雄太学長あいさつ>
●コミュニティー通訳の意義と通訳者の心構え...医療通訳を中心に...
・増加する外国人
日本の人口の1.74%が外国籍住民である。その半数近くが日本語が得意でない、または全く話せない。日本は移民を受け入れてこなかったことを考えると、非常に大きな数字。
地域差がある。愛知ではブラジル人・ペルー人が多く、大阪では8割が中国人。集住地域はたいてい決まっており、7割が集住している。
・暮らしの中の外国人
外国人が日本で暮らす上での障害は言語、制度、文化。心の壁=文化ともいえる。例えば、外国人には部屋を貸したくない。文化の壁、文化の差をつなげる必要が生まれてきた。
・通訳の需要におけるシフト
今までは短期滞在の会議・ビジネスのための通訳だったのが、生活面での通訳にシフトしてきている。「コミュニティー通訳」
・コミュニティー通訳の特徴
2)力関係に差がある:
片方に情報・知識・権限が集中している、差のある間の通訳(例:医者と患者)
3)言葉のレベルが様々:
さまざまな言語の必要性があり、ニーズは移り変わっていく。教育レベル、話し方にも差がある。
4)文化的要素:
言語と文化は切っても切れない。食事(栄養指導・味付け)、お産、育児等にはその国独自のやりかたがあり、その違いを踏まえて通訳することが必要である。
5)基本的人権の保護に直結している(一番重要) →「言語権」
・「言語権」とは
公民権運動を通じて確立した概念。マイノリティーの権利を認める。
例:アメリカ、英語の話せない人にも他の人と同じ権利を与える。
言語権とは、言語を話す権利ではなく、それを通していろんな権利にアクセスできる、ということ。例えば公平な司法へのアクセス、安全な医療へのアクセス、学校教育へのアクセス、といったものができること。それには言葉が通じる必要があり、そのために通訳・翻訳をつけることも言語権の概念に含まれている。
・コミュニティー通訳の分類
司法通訳はコミュニティー通訳に含まれているが、パブリックサービスではないかという考えもある。
生活に密着した通訳=コミュニティー通訳
コミュニティー通訳において、司法通訳とならんで医療通訳は重要。人の命、健康にかかわる分野である。コミュニケーションがうまくいくかどうかが、結果に大きな影響を及ぼす。うまく伝わらなければ、治るものも治らない。
・医療通訳に必要な能力と資質
(1)語学力があるだけでは、橋渡しはできない。通訳はアクティブ・リスニング。なんとなく分かるではなく、同じことがもう一度言えるような聞き方をしなければいけない。聞いたことを覚える記憶力が必要。メモを取ってまとめておく。聞きながらメモをとるバランス。こういった通訳のスキルが必要。また、内容が分からないと意味がない。分野の知識が必要である。
(2)異文化に対する理解。文化とは、国と国だけでなく地域の間、各個人にも差がある。その人が背負っているもの、その人にとって当たり前のものはなんなのか、そういったことを考えながら通訳しなければ誤訳につながる。
(3)自分が追体験してしまい、トラウマになってしまうことがある。例:患者の死、告知など。ストレスになってしまうので、距離を置いたり、自分を客観的に見る必要がある。そのためには人生経験豊富な方がよい。→通訳者の心のケアが必要。外国では、通訳専門のカウンセリングもある。
・通訳者の役者モデル
導管モデル・・・何も足さず引かず、言われたことをそのまま伝える。
文化仲介者・・・文化も伝える。
擁護者・・・クライアントの健康が脅かされている=人権が侵害されているとき、クライアントの人権を守るためにアクションを取る。これには賛否両論あり。
介助者・・・なんでも手伝う。
コミュニケーション促進役・・・二者の会話が上手く流れるように、自分が会話の参加者になる。
重要なのは、通訳に徹するのか、援助者になるのかである。その場面で自分がどのような立場なのかによって役割も変わってくる。
・通訳者の倫理
・通訳者の守るべきことがら
(1)守秘義務:どの範囲で守るのかがが問題。家族であっても気をつける。虐待についてどうアクションを取るべきかは、その状況による。
(2)公平・中立な立場を取る:専門職は通訳。それ以外のことはしない。自分は医者ではないので、素人として無責任なことを言ってしまってはいけない。その人の味方になって何でもやってあげるというのは気をつけるべき。でないと自分が大変な目にあってしまう。また中立でないと、正確性に問題が起き、自分の都合の良いように訳してしまうこともでてくるので、中立性は重要である。
(3)文化に対する認識:それがないと、話し手が本当に言いたい事が分からない。
(4)能力の限界を意識する:プロ意識につながる。非常に難しい場合、依頼を断る勇気も必要。できるような顔をして、できないことをしてはいけない。
(5)原発言に忠実になる
・アドボカシー
通訳しかその人を守るために動けない場合、動くべきかどうか。アメリカでは認められている。ただし、その手段しかない場合に限る。中立性の原則と相反するという議論がある。オーストラリアでは認められていない。日本ではまだ指針がない。ここまで議論が進んでいないと言える。
医療通訳分野では、これも重要な要素になるであろう。人の幸せや健康を守る場面が医療の現場であるから。
村松>
●スペイン語および日本人通訳者の医療スペイン語学習について
医療通訳だけでなく、スペイン語通訳の立場として、今までの経験からお話しさせていただきたい。
本職は、医療通訳ではない。マイナー言語の通訳の場合、医療分野だけでなく、裁判、行政窓口、教育関係、離婚調停など、さまざまな分野にかかわることになる。
兵庫県国際交流協会でスペイン語の相談員として17年目。年間約5000件の相談が寄せられるが、そのうち4割、約2000件がスペイン語での相談、通訳依頼である。相談内容は、生活保護申請、多重債務、離婚、交通事故といった、日常生活の中では解決が難しいことが多い。医療に関する相談、通訳は約2割である。
阪神淡路大震災で、人は心や体が弱った時、母語で相談したり、支援を受けたいと強く思う、ということを実感した。そこで医療通訳研究会を立ち上げた。
青年海外協力隊としてパラグアイに赴き、そこでスペイン語を学んだ。帰国後、中南米から来ている方々の支援をしようと考えた。パラグアイで学んだスペイン語を役立たせようと考えた。17年前当時は、コミュニティー通訳やパブリック・サービスといった言葉もなく、失敗を繰り返しながら、手探りで活動を続けてきた。
1:スペイン語医療通訳の特殊性、使命を認識すること
医療通訳というのは、決して楽しい仕事ではない。がんやHIVの告知など、患者の絶望を目の当たりにしたり、死別に遭遇したりすることもある。治る方もあれば亡くなる方もある。この仕事は、達成感を得にくい仕事だろう。
もし、楽しい触れ合いを望むのならば、学校・教育通訳通訳など、ほかの分野を選ぶのもよい。なぜ医療通訳を選ぶのか、動機を持つことが大事。動機が活動継続の支えとなる。
一番重要なのは、目の前にいる患者を見て、現状を判断することである。自分がどのように動くけばいいのかを考えることが必要。目の前にいる患者が見れなくなったら、医療通訳を続けることはできない。そのような使命感を持っていなければ、医療通訳はなかなか続けられないだろう。
2:スペイン語医療用語の勉強の仕方
①日頃から医療情報に気をつける
医者の使う専門書を読む必要はない。家庭の医学、スペイン語週刊誌、インターナショナル・プラスの医療コラム、医療・福祉制度の本を読む。NHK「今日の健康」をチェックする(一般人向けの医療番組)。行政の広報、パンフレットなどを確認する。臨床心理士の田中ネリさんの著作などもよい。私たちの周りには、多くの医療情報が溢れている。少しアンテナを立て、情報を積極的に取り込んでおくことが大切。
②患者本人が使う単語を知る
中南米独特の単語が存在する。その単語に出会ったときに確認しておくことが大切。患者本人が使っている単語を自分も使う。ej: Papanicolau がん検査、Suero 点滴、Panza 下腹(パラグアイ、辞書では太鼓腹の意)など。中南米でも国により使用する単語が異なる場合があり、患者がどの言語圏にいてどの単語を使っているのかを雑談の中から判断しておくとよい。
③南米にはない病気の概念について
日頃から認識しておき、やさしい日本語で説明できるようにしておくとよい。五十肩、ぎっくり腰など。
④ミニドクターにならないように気をつける
医療従事者の様にアドバイスをすることはできない。医療は資格のある人だけが行える行為であることを日頃からきちんと認識しておくことが大切。
3.準備について
通訳の仕事の半分は、この準備の部分にあるといえる。医師や患者にストレスを与えずにコミュニケーションを繋げることが、医療通訳の力の見せどころ。まず通訳内容について、インターネットや書籍、雑誌で情報収集しておく。
ノート作りをしている。検査室はとても狭いので、ページをめくることができず、コンパクトにまとめる必要がある。そのためにA4見開き1枚で完結するようにしている。
待ち時間中に、患者の知識レベルや使用する単語について確認しておく。例:CTをどの単語で表現しているか、検査内容をどれぐらい認識しているのか。
4.当日の持ち物について
名刺:通訳の名前がカルテに残る。後に電話通訳がしやすい。
筆記用具:使いやすいものを2本以上。
辞書:大きな医学辞書を持ち込むことはできない。自分を過信しない。
単語ノート:前述のとおり。
メモ帳:特に数字、固有名詞、自分が分からなかった単語をメモする。数字は単位を間違えたりしやすいので、必ずメモするようにしている。後から説明しやすいように、非常に重要な点についても書き留めておく。
人体図が便利。写真、図を使い、指し示しながら説明すると伝えやすく、患者も理解しやすい。理解度について二重確認ができる。自分の持ち物、服装についても留意する。
5:医療通訳者のセルフケア
自分自身をリラックスさせたり、ケアすることが重要。医療通訳は、経験が豊富な方がよい。 疲れた時にはきちんと疲れたと言い、口に出して発散し、自分をケアすることが必要。人を助ける能力だけでなく、人に助けを求める能力も身につけることが大切。
水畑>
●ブラジルの医療現場から日本のコミュニティ通訳現場へ
1.ブラジルと日本の医療
ブラジルは南米大陸47%を占め、国内に先進地域と途上地域が存在する。先進地域に限って言えば、先進国と同レベルの医療水準である。ドイツ系移民の子孫がいるので、ドイツ語を話す医療従事者がいる。そのため、ヨーロッパから患者が来るほどである。
・日本の医療機関
自身が患者として日本の医療機関にお世話になった際、最初は不信感を感じた。なぜならば、ブラジルの医療機関では行われたインフォームドコンセントが当時の日本ではなかったから。日本では医者が神であり、神に質問することはできなかった。1997年医療法改正によって、医療者は適切な説明を行い医療を受ける者の理解を得るために努力する義務が明記された。
保険証を持っていれば日本のどの地域でも医療を受けられること、外国人にたいして音声やFAXで多言語の医療情報提供がなされている点は素晴らしい。ブラジルでは、保険提携した医療機関以外で受診すると全額負担しなければならない。
・ブラジルの医療制度
公立病院での治療は無料。医療レベルは高くもなく、低くもない。緊急と認められる場合以外、朝早くから順番待ちしなければならない。1998年新憲法で、健康は国民の権利であり、国民の義務である、と明言されて、統一保健医療システムが作られた(Sistema Unico de Saude,以下SUS/スス)。国民全員が任意加入、無料で受診できる。政府と州、市町村が財源を負担している。国民の8割が利用している。国民の5割はSUSのみ利用、3割は民間保険と併用している。民間保険ではカバーできない医療にSUSを利用している。国民の2割が裕福層であるが、彼らは民間保険のみ加入している。
高次医療、がん治療や移植もSUSによって無料で受けることができる。問題は医療機関に支払われる給付金が民間保険に比べて非常に低いことである。病院は、採算を取るために大勢の患者を診る必要があり、これは医療サービスの低下、医療機関の赤字を招く。そのため一部の公立病院のみしかSUSを受け入れていない。
2.通訳者としての体験
ブラジル生まれ。ポルトガル語が母語である。父が日本人で、母が日系二世であったので、日本文化について接してきた。また日本語の塾のようなところに10年間通っていた。日本へ留学し、日本人と結婚。夫は私の日本語のチェックをしてくれる。これが日本語のレベルアップにつながっていると思う。
日本へ来た時は歯医者になろうと考え、歯科医師免許試験を受けるつもりでいた。語学関係の仕事が舞い込むようになり軽い気持ちで引き受けたが、語学ができるだけでは通訳ができないことを知る。どうしたら通訳することができるのか、考えるようになった。そこで技能を磨くため。英語の通訳学校に通った。現在は語学講師、通訳、翻訳の仕事を行っている。通訳の仕事には波がある。季節労働者・日雇労働者のような環境であるように思う。
通訳とは、橋渡しをする仕事である。通訳のコミュニケーションに必要なのは、相手が話していることをきちんと理解し、伝えること。通訳の技能を身につけるために、自分でトレーニングすることが必要。教材としては、例えばNHKのラジオ講座などがよい。聞いた後に、自分の言葉で説明する。これができるようになったら、アナウンサーが話していることを追いながら訳す。非常に集中力が必要。レベルアップには新聞の音読がよい。専門分野の記事を読むこと。
現在の仕事内容について。7割が司法通訳や行政通訳といったコミュニティー通訳である。会議の通訳は流暢に美しく訳さなければいけない。法廷通訳は足すことも引くことも、要約することもなく、そのままの言葉を訳す。守秘義務を守ることも重要である。
<質疑応答>
Q:どこから医療通訳の仕事の依頼が来るのか?また、通訳が必要な外国人はどこに行けば通訳を依頼できるのか?
A:
水野>地域、自治体などによって異なる。たとえば、国際交流協会と3つの病院が提携し、通訳が必要な場合、病院が協会に依頼し、協会から通訳が派遣される、といった具合である。
村松>兵庫県国際交流協会の相談窓口にいるが、8割が電話通訳。診察中に電話で依頼、通訳する。問診票などはFAXしてもらう。電話で患者から聞きとり、問診票を病院にFAXで送る。病気の説明に関しても内容をFAXで送ってもらう。それを電話で患者に伝える。薬については、患者に薬の説明書を持参してもらい、説明する。2割が付き添う必要のある通訳。これはボランティアでやっているのが現状。将来的には、仕事として派遣されたり、請け負ったりすることができる地域体制を目指しているが、今の段階ではそれは難しい。
堀田>現在、医療通訳士協議会(Japan Association of Medical Interpreters/JAMI ジャミ)の発足がすすんでいる。通訳・病院・患者をつなげるシステムが出来るとよい。愛知県では愛知の国際交流協会などでボランティア通訳の登録が行われている。
Q:通訳者の心のケアについて、日本の現状はどうか?海外ではどうか?
A:
水野>日本でも海外でも、通訳を派遣する際にはコーディネーターが存在する。コーディネーターは病院とのやり取りや、人選を担当する。海外ではコーディネーター部門に専門のケアスタッフがいるところがある。
Q:文化的状況を考慮することについて、文化を知るには具体的にどうすればよいのか?
A:
水野>非常に難しい。いろいろな言語の通訳者に文化に関するアンケートを行ったことがあるが、通訳者は皆、文化についての悩みを持っていた。文化は言語が違えば異なる。言語が同じでも国が違えば異なる。個々に対応する必要があるだろう。すべての文化に当てはまるマニュアルのようなものはない。通訳は感性を研ぎ澄ますこと、トラブルがあった際は、文化的な背景が関係するのではないかと考えること大事ではないか。宗教に関しては、タブーについてなど勉強しておいた方がよいだろう。
Q:通訳としてどれくらい関わったらよいか?
A:
水野>深入りしすぎると頼られ過ぎ、自分の生活が大変になる。自分を守るためには距離を取ることも必要。支援できる情報があれば情報として伝えることはいいと思う。しかし自分が患者の悩みに対処することは避けたほうがよい。専門家ではないし、自分の生活を圧迫しかねない。どこに行けばどういった支援をしてもらえるのか、という情報を提供するのは問題ないだろう。
Q:守秘義務をどうやって守るのか?
A:
水野>難しい。倫理規定は法律ではない。守秘義務を守らず問題が起こったら、ということについて、海外ではさまざまな議論がなされている。日本の司法通訳において、報道で本名を話してしまった人がいたが、その後批判をうけ二度と司法通訳の仕事が来なくなった。守秘義務をどのように担保するかといったシステムはないが、信用を失えば自分は二度と通訳としての仕事ができなくなる、という覚悟をしてやる、といったことぐらいしか言えない。
Q:お勧めの辞書を教えてください。
A:
村松>インターナショナル・プレス社『暮らしの医学用語辞典』。人体図もあり、便利。足りない部分もあるが、これ以外にすぐ使えそうなものはない。
Q:ノートの記録の仕方についてもう少し教えてください。
A:
村松>病気別に記述している。通訳の仕事があるとき、事前にどのような疾患で何科に受診するのかを知らされる。仕事を続けながらノートを作っているので、まだすべての分野を網羅しているわけではないが、使いまわししやすいと思う。私は自分の苦手な単語を中心に集めてます。大きめのA4、膝に乗る程度のノートが一番便利だと思う。
Q:待合室で情報収集するとあったが、そのことについてもう少しうかがいたい。
A:
村松>一番大切なのは、依頼者に信用してもらうこと。口が堅い、医療の単語がわかる、偏見を持っていない、誠意を持って接することが大事。きちんと挨拶をすること。診察室では忘れてしまうこともあるので、不安なこと、先生に聞きたいことなどを聞いておくこと。できれば 症状、病気の状態についても聞いておくとよい。
Q:報酬について。
A:
村松>全国平均では、5,000円が相場ではないだろうか。通訳者としては10,000円位ないと本来はやっていけない。患者から頂きにくいこともある。医療通訳士協議会(JAMI)では、制度化、医療通訳者の資質の向上、報酬の三本柱に取り組んでいる。
Q:やりがいを感じる瞬間は?
A:
村松>いつもしんどい。やりがいは感じるときはほとんどないが、インフォームドコンセントの際にきちんと理解してもらった瞬間に感じる。
Q:なぜ南米が好きなのか?
A:
村松>とてもわかりやすい人たちが多い。いろんなタイプの人がいて、明る人ばかりでもなく、日本人的な人もいる。日本まで来るだけあり、皆情報や問題を解決する力を持っている。喧嘩や議論しても元に戻れるなど、相手の心の中を探らなくていい人間関係が気づけると感じる。
Q:青年海外協力隊について教えてください。
A:
村松>農業分野で派遣されていた。農協で活動していたので、女性の出産や体のことについて話を聞くことが多かった。あまり衛生環境、健康状態のいい場所ではなく、病気や病院に関しては、自分にとってつらい経験であった。日本に来ている方々が、私と同じように通じなくてつらい目にあったり、アクセスできない事のないように活動したいと考えている。
Q:この分野ではボランティアが多いと思うが、どこまで求められるのか。
A:
村松>通訳にとって大きな課題。有償だから無償だからと言って、ちゃんとした通訳をする、しない、ということはないが、医療従事者は資格を持ったプロであるので、通訳をするにはそれなりの覚悟を持たなければならないと感じる。通訳の際にはできるだけ準備を行う。
Q:統一保健医療システム(Sistema Unico de Saude,以下SUS)について。
A:
水畑>任意で全員加入。すべて無料。公的保険。最寄りの保健所に身分証明書を持って行き登録する。高次医療、緩和医療、移植もすべてカバーしている。資料では5割がSUSだけを利用。予防接種、妊婦の検診もできる。専門医療を受ける場合、緊急以外は待ち時間が長い。待ち時間中に亡くなる患者もある。私立の病院は、医療レベル、施設も素晴らしいが、高額なため裕福層しか利用できない。
Q:ブラジルの医療従事者が日本で働くにはどうしたらよいのか?
A:
水畑>日本の国家試験を受けるしかない。大学に編入する必要がある。
Q:ブラジルでの障害者に対する医療は?
A:
水畑>SUSを利用すれば無料になる。情報がカードに蓄積され、そのデータを見れば、どこでどんな医療を受けたを知ることができる。自己負担はゼロ。まだ全員に普及はしていない。
Q:相談に乗ったりするのは控えなければならないというのは大切だが、もし患者が医療以外に重大な問題を抱えている場合、例えば困窮しているために犯罪を犯す可能性のある患者に対して、人間として通訳者はどうすべきなのか?
A:
水野>まず相談に乗ることについて、自分が通訳であることが前提で、自分がもし支援者という立場として関わるならば、もう少し立ち入ってもいいかと思うが、その後に何が起きても自分の責任になってしまうだろう。犯罪について、警察でも事件が起きないと動けないので、犯罪が起きるかもしれないという状況では誰も何もすることはできない。何か問題があることについては、どこか相談窓口に行くことを勧める、といったことならできると思う。何かの拍子にその人が犯罪を犯していることを知ってしまった場合(パスポートの偽造など)、法律上、公務員ならば職務を行なっている時に犯罪を知り得たら告発する義務がある。公務員でない場合は、自分の判断だろう。いろんな考え方があるので、自分がどういう立場なのか、自分の役割を考え、明確にすることから始めるのがよいだろう。
Q:人材育成について。
A:
堀田>現在、愛知県立大学で行われている講座は、医療関係者とスペイン学科卒業生など外国語既習者を主に対象としている。外国語を母語とする人に日本語を覚えてもらい通訳になってもらうということも考えられるだろう。その3種類の人材が医療通訳技能の養成には考えられる。県大として今後、事業をどのように継続していくのかは検討中である。
大野外国語学部長あいさつ>
自身は英米学科の教員であり、スペイン語、ポルトガル語、医療は専門外であるが、3人の先生方のお話をうかがい、今日の問題は、スペイン語、ポルトガル語に限ったものではなく、少なくとも外国語学部の学生には全員に聞かせたいと感じた。3人の先生には心よりお礼申し上げます。本日のテーマは、愛知県にとっては最も必要で、緊急性の高いものであると思われる。本事業は、おそらくはこれからが本当の意味での勝負と思っている。堀田先生の方から今後の検討課題が示されている。外国語学部としては全面的にバックアップしたいと思っているが、なかなか実現が難しい部分もあると考えられる。受講生の方々の協力も得ながら、少しずつでもステップアップするような形で今後ともこの活動を継続できるように、見守りつつ、外国学部の範囲中で可能な限り知恵を出し合いやっていきたい。お忙しいところ、多数お集まりありがとうございました。また今後とも、よろしくお願い致します。
小池>
今回のシンポジウム・講座をきっかけに、医療分野でのコミュニケーション支援や医療痛通訳の面で、個々に活動していらっしゃる方々のネットワークの中心的役割を県大が担っていけるのではないだろうかと考えている。受講生の方々にも、本学を利用しながら、活躍していただきたい。最後になりましたが、本日は3人のシンポジストの方々から大変有意義なお話を伺うことができました。ありがとうございました。拍手を持ってお送りしたいと思います。
{2009年12月5日一部語句訂正}