第26回整数論サマースクール
「多重ゼータ値」

期間:2018年9月10日(月) 13:30 [受付開始] ー 14日(金) 13:30 [昼食後解散]
場所:伊良湖シーパーク&スパ 愛知県田原市伊良湖町宮下2822-2

講演者 (*敬称略)
小野 雅隆 (慶應義塾大学) [レジュメ]
小野塚 友一 (九州大学) [レジュメ]
金子 昌信 (九州大学) [レジュメ]
川﨑 菜穂 (東北大学) [レジュメ(更新9/8), 古い版変更点]
小見山 尚 (名古屋大学) [レジュメ]
佐久川 憲児(京都大学)[レジュメ]
関 真一朗 (東北大学) [レジュメ]
田坂 浩二 (愛知県立大学) [レジュメ]
寺杣 友秀 (東京大学)
萩原 啓 (理化学研究所/慶應義塾大学) [レジュメ]
原 隆 (東京電機大学) [レジュメ(更新9/4)]
原田 遼太郎 (名古屋大学) [レジュメ(更新9/4)]
広瀬 稔 (九州大学) [レジュメ]
古庄 英和 (名古屋大学)
安田 正大 (大阪大学) [参考資料 + データ1,2,3]
山本 修司 (慶應義塾大学) [レジュメ]
内容
  • 初日・二日目

    多重ゼータ値の定義から始め、次元予想や反復積分表示、正規化といった基本事項について述べます。また、多重ゼータ値の様々な関係式族 (一般化複シャッフル関係式、結合子関係式や積分級数等式など) をその手法とともに解説します。そして、有限多重ゼータ値(「アデール的環」世界の多重ゼータ値)やp進多重ゼータ値(「p進」世界の多重ゼータ値)、対称多重ゼータ値(「実数」世界の多重ゼータ値のvariant)といった異なる世界の多重ゼータ値を導入し、これらの間の関係について議論します。

    • 金子 昌信:多重ゼータ値導入(レジュメ)
      多重ゼータ値というものを初めて学ぶか,聞いたことはあるけれども定義くらいしか知らないという人達を対象に,級数による定義から始め,そこから導かれる積構造,また反復積分表示という別の表し方があることから従う帰結,またそれら二つの顔を持つことにより自然に生じる関係式族,それを更に拡張する正規化と呼ばれる手法などについて解説する. 何かと便利な,非可換多項式環を用いた代数的取り扱いについても触れる.
    • 川﨑 菜穂:Yamamoto積分表示と積分級数等式 (レジュメ)
      Yamamotoは, 2-labeled posetを用いて反復積分を定義し, 多重ゼータ(スター)値を含む広範な対象の積分表示を与えている. 多重ゼータ値の類似物である, Arakawa--Kanekoゼータ関数やMordell--Tornheim型多重ゼータ関数, ルート系のゼータ関数それぞれの特殊値を表すことができ, 応用として, それらの特殊値に対する関係式が再証明される. 本講義では, Yamamoto積分表示を導入したのち, Arakawa--Kanekoゼータ関数への応用について述べる. また, Kaneko--Yamamotoによって導入された積分級数等式を紹介し, これに付随する予想を紹介する.
    • 原田 遼太郎:KZ方程式とKZ結合子 (レジュメ)
      Drinfeldによって導入されたKZ結合子および結合子関係式について講演します. 本講演ではまず形式的KZ方程式とよばれる\(\mathbb{P}^1-\{0,1,\infty\}\)上のFuchs型微分方程式の基本解を用いたKZ結合子の導入から始め, 実はKZ結合子が多重ゼータ値の母関数であることと, 結合子関係式のgroup-like, 2-cycle, 3-cycle, 5-cycleのそれぞれからどのような多重ゼータ値の関係式が導かれるかについて紹介します. また, 結合子関係式の証明についても5-サイクルを除いて述べる予定です.
    • 原 隆:「実/複素ゼータの世界」から「p進ゼータの世界」へ (レジュメ)
      多重ゼータ値/関数のp進世界での対応物であるp進多重ゼータ値/関数について講演します。p進世界でゼータ値/関数を考えるのが何故難しいかを簡単に振り返った後、
      ・p進積分論を用いたp進多重ポリログ関数およびp進多重ゼータ値の定義
      ・p進KZ方程式とp進Drinfel'd結合子
      ・p進[多重]ゼータ関数の補間性質とColemanの公式
      などのトピックスについて解説する予定です。時間の関係で非常に大雑把な枠組みを駆け足で紹介することしか出来ませんが、「p進ゼータの世界」の難しさ、面白さを楽しんでいただければ幸いです。
    • 小野 雅隆:「多重ゼータ値」から「有限多重ゼータ値」へ (レジュメ)
      多重ゼータ値は無限級数で定義されますが, 無限和を途中で打ち切った多重調和和, 特にそれを素数 p ごとに mod p した mod p 多重調和和がHoffmanやZhaoによって研究されていました. Zagierは mod p 多重調和和をあるアデール的環を用いた新しい枠組みの中で有限多重ゼータ値として再定義しました. 一方で有限多重ゼータ値の実世界の対応物として対称多重ゼータ値を導入し, 有限多重ゼータ値との関係を記述する予想をKanekoと共同で提唱しています. この予想を信じるならば, 有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値は \(\mathbb{Q}\) 上全く同じ代数関係式を満たすことが期待されます.
      この講演では多重ゼータ値の2種類の有限類似 -有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値- の理論を概観し, Kaneko--Zagier 予想の定式化を行います. また知られている関係式族や未解決問題についても述べます.
    • 安田 正大:「p進多重ゼータ値」から「有限多重ゼータ値」へ (参考資料 + データ1,2,3)
    • 関 真一朗:「\(\mathcal{F}\)-有限多重ゼータ値」から「\(\widehat{\mathcal{F}}\)-有限多重ゼータ値」へ:ただし、\(\mathcal{F}= \mathcal{A}\) or \(\mathcal{S}\) (レジュメ)
      小野氏の講演で有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値が導入された. 有限多重ゼータ値は多重調和和をmod pで考えたものを束ねてアデール的な環の元とみたものであり, その振る舞いを対称多重ゼータ値によって実数世界でも感じとることができるというのがKaneko--Zagier予想であった. 近年, Zhao, Rosen, 講演者などにより高い冪(mod p^n)での振る舞いも研究されている. これにより, 有限多重ゼータ値のいわばp進展開的な研究が発展しているが, 実数世界に対応物があるのかは非自明に思える. 講演では, Kaneko--Zagier予想のこの方向への精密化について議論する.
  • 三日目

    多重ゼータ関数を導入し、その解析理論を扱います。絶対収束領域や解析接続、極の位置などの基本事項を議論した後、負の整数点(不確定特異点)での"値"を議論します。

    • 小野塚 友一:多重ゼータ関数の解析接続と負の整数点での極限値 (レジュメ)
      多重ゼータ値はもともと正の整数点での特殊値を扱っていたが、この講演では複素変数関数である多重ゼータ関数について話す。まず初めに多重ゼータ関数の絶対収束領域を与え、次に解析接続と特異点の位置を与える。ほとんどの負の整数点は特異点であるため値は定まらないが、不確定特異点であるため極限値を考えることができる。この極限値がどのように表せるのかについて最後に解説する。
    • 小見山 尚:特異点解消法と繰り込み法 (レジュメ)
      多重ゼータ関数の極は無数にあり、取り分け負の整数点のほとんどは極に位置してしまう。従ってこれらの点における特殊値を決定することは出来ない。そこでこれらの点での"意味のある値”を与える方法の一つとして繰込み法が導入された。繰込み法で得られる特殊値である繰込み値は、多重ゼータ値と類似した関係式を満たすことが構成法から分かる。この講演では繰込み値構成手順や幾つかの性質について話す。
  • 四日目

    モチヴィック多重ゼータ値を導入し、その応用について解説します(補足資料あり)。まず、多重ゼータ値と\(\mathbb{P}^1-\{0,1,\infty\}\)の基本群の比較同型定理との関係を明確にし、モチヴィック多重ゼータ値のアイデアを説明します。次に、Zagierによる多重ゼータ値の次元予想の部分解決を与えたDeligne--Goncharov、Terasomaの定理の証明の概略を説明し、BrownによるHoffman予想(多重ゼータ値の基底に関する予想)の部分解決の証明のアイデアを概説します。また、モジュラー形式との関連を示唆している多重ゼータ値の深さに関する次元予想であるBroadhurst--Kreimer予想とその進展を紹介します。

    • 山本 修司:多重ゼータ値と\(\mathbb{P}^1-\{0,1,\infty\}\)の基本群 (レジュメ)
      四日目の大きなテーマであるモチヴィック多重ゼータ値は,多重ゼータ値をコホモロジー論の立場から解釈したものといえます.このような解釈の出発点となるのが,これまでの講演にも登場した反復積分表示です. 通常の線積分(つまり1次微分形式の曲線上の積分)がde Rhamの定理を通じてコホモロジー的な文脈に現れるように,反復積分はde Rhamの定理の「基本群版」であるChenの定理の中に自然に現れます. この講演では,\(\mathbb{P}^1-\{0,1,\infty\}\)という空間におけるChenの定理を,多重ゼータ値の解釈に必要となる「接基点」の扱いを含めて紹介します.
    • 佐久川 憲児:Hodge理論で次元評価したら失敗した件について (レジュメ)
      本講演ではまず山本氏の講演に於いて導入された三つ組みが混合Hodge-Tate構造をなすことを解説し、それを用いてHodge理論的な多重ゼータ値の持ち上げ (HMZVs) を構成する。HMZVsの次元評価を、Hodge理論を用いて試みることにより、萩原氏の講演に於いて導入される混合Tateモチーフの圏の必要性について解説する。
    • 萩原 啓:「多重ゼータ値」から「モチヴィック多重ゼータ値」へ (レジュメ)
      本講演では、ウェイトを固定したときの多重ゼータ値たちが\(\mathbb{Q}\)上生成する\(\mathbb{R}\)の部分\(\mathbb{Q}\)ベクトル空間に対し、その次元の具体的な上界をあたえるDeligne--Goncharov, Terasomaの定理の混合Tateモチーフを用いた証明について概説する。混合Tateモチーフの圏やモチーフ論的基本亜群などの構成については概略に留め、一見「抽象的な」これらモチーフ論的対象からどのようにして「具体的な」多重ゼータ値についての情報が引き出されるのか、という部分を中心に解説する予定である。
    • 広瀬 稔:BrownによるHoffman予想の証明の概略 (レジュメ)
    • 田坂 浩二:多重ゼータ値のモジュラー現象 (レジュメ)
      深さフィルトレーション付きの多重ゼータ値代数には,モジュラー形式との関係が示唆されている。この講演では,線形化複シャッフルリー代数という複シャッフル関係式から得られる代数構造の研究を通して,多重ゼータ値とモジュラー形式の次元的な関係を記述するBroadhurst--Kreimer予想の現状と発展を紹介する。
  • 五日目

    多重ゼータ値と関連する発展的な話題について議論します。

    • 寺杣 友秀:退化楕円曲線と多重ゼータ値の重さフィルトレーションについて
    • 古庄 英和:アイについて...

予備知識
  • (全体) 非可換多項式環や語(word)の扱い
  • (2日目) p進数、射影極限
  • (4日目) 圏や関手、自然変換、などなど